黒死館殺人事件(5)
2023年12月30日 (土) | 編集 |
(第二篇 つづき)

○二、鐘鳴器(カリルロン)の讃詠歌(アンセム)で……

執事にとんでもないことを言った法水は、
「大体、太陽系の内惑星軌道半径が、どうしてあの
老医学者を殺したのでしょう?」とか
「私はある憎むべき人物が、博士を殺した微妙な方法を
知ると同時に、初めて、占星術や錬金術の妙味を
知ることができました」とか
「水星と金星の軌道半径を描くと、その中では、他殺の
凡ゆる証拠が消えてしまうのです」とか、
部屋中の人間(および私)を面食らわせます。

 kokusikan04.jpg

部屋の見取り図を書いて、水星はMercuryであり
水銀でもあり古代では青銅(Venus)の薄膜の裏に塗って
鏡を作っていて当然犯人の顔が映ることになりましょう。とか、
S一字で何が表されているでしょうか、第1に太陽、
それから硫黄ですよ。水銀と硫黄との化合物は朱。
朱は太陽であり、また血の色です。つまり、扉の際で
算哲の心臓がほころびたのです。とか、
マジで何言っているか分からないことを次々喋ります。

「Sの字はさらに悪魔会議日(サバスディ)、立法者(スクライブ)、
そうです、まさしく犯人は立って歩くことのできない人間――
それが犯人なんです」!
と、理屈も何もないこじつけみたいなことをドラマチックに言い、
私は「は?」と思ったし、検事や局長たちも「は?」だろうと
思ったのですが、ここでまさかの展開で、
真斎が急にがくがくして呼吸困難になって慌て出すのです。
何がそんなに刺さったのか??

法水が言うには、犯行は車椅子とカーペットを使ったと。
帷幕の影に隠れていた犯人は、鍵をかけようと扉へ近づいた
博士の後ろからカーペットをバインとやって波を作り、
(車椅子の?)足台を博士のひかがみに激突させる。
するとイエンドラシック反射によって博士が両腕を上げる。
その両脇から博士を抱え、短剣を心臓に向ける。
博士は反射的に短剣を握ろうとする。
そして直後に扉に激突して短剣が心臓を貫く。
カーペットを戻せば、博士の死体が部屋の中央にくるのだ。

すごい空気の部屋に、鐘鳴器(カリルロン)の音が響いてくる。
真斎は顔色は蝋白色で脂汗だらだら。
法水の推理はかなり強引に思えるけれど、
こんな反応をするということは、これが真実なんだろうか。

真斎がしぼり出すように言う。
「嘘だ……算哲様はやはり室の中央で死んでいたのだ……。
然し、この光栄ある一族のために……儂は世間の耳目を怖れて、
その現場から取り除いたものがあった……」

それは、テレーズの人形だった。

人形は死体の下になり、算哲の右手に両手を重ねていた。
易介に命じてさせた。

法水は急にスンっとなって、「ま、死体ももうありませんしね」
みたいに以降の追求をやめる。

そこへ、美しい四重奏の曲が始まる。
法水はそれを聴こうと、さっさと礼拝堂へ向かう。

検事になぜあと一歩で追求をゆるめたのか、と問われた
法水は爆笑し、
えっアレを本気にしてたの? 僕もああいう恫喝尋問みたいの
一番いやなんだよねーと言う。
真斎が何も喋りそうにないことを見抜き、精神的優位に
立って情報を引き出すための芝居だったらしい。
つまり、最後に出た証言がほしかったのか。

礼拝堂へ入ると、4人が演奏している。
ついに、被害者以外の楽団員が登場する。

チェリストのオットカールは、不細工な巨石にしか見えない。
ヴィオラ奏者のオリガ夫人は、如何にも峻厳な相貌。
ガリバルダ夫人は、透明感があってパッチリお目々。
3人は、44~5歳に見える。

ダンネベルグ夫人が亡くなったのに
四重奏が聞こえるのが不思議だったけれど、
第1ヴァイオリンを奏でているのは降矢木旗太郎だった。
「法水は、日本中で一番美しい青年を見たような気がした」
と書かれている。
(でも、「その美しさも所謂俳優的な媚色であり、
叡知の表徴をなすものが欠けている」とけなしてもいる)

また鐘鳴器が鳴り始め、それに合わせて口ずさみ、
終盤、倍音が聞こえる。最後の節は聞こえなかった。
法水はつぶやくような微かな声で言う。
「支倉くん、拱廊(そでろうか)へ行かなけりゃならんよ。
彼処の吊具足の中で、たしか易介が殺されているんだ」

   *

鐘鳴器(カリルロン) という楽器がどういうものか
パッとイメージできません。作品中には
「鍵盤を押して音調の異なる鐘を叩き
ピアノ様の作用をするもの」と注釈があります。
音色はのど自慢の鐘みたいな感じかな?と想像するけど、
でも直接叩くんじゃなくて鍵盤楽器なんですね。

"鐘鳴器" ではなかなか検索もヒットしなかったのですが、
「カリヨン」という表記が現在は一般的なもよう。
これならWikipediaもありました。

カリヨンは鐘楼などの塔状の建築物として設置される楽器であり、
多くは塔内にあるコンソールから演奏する。
パイプオルガンと並んで、世界で最も重い楽器の一つ、とのこと。

日本にはカリヨン的なモニュメントは300ヶ所以上あるが、
ほぼ全てが自動演奏のみが可能なものか、鍵盤があっても
動力を電気式で伝える非伝統的なもので、
厳密なカリヨンに当てはまるものは4つだけ、あるらしい。

楽器の数が限られているため、演奏者の数は少ない。
専門の学校を卒業するか、ギルド認定試験に合格することで
認定カリヨン奏者になれる。
("ギルド認定試験" って、ファンタジーRPGっぽさあるね)

ふむふむ、だいぶ理解できてきました。
Youtubeにも、演奏されるカリヨンの動画がありました。
最初はサラッと流せばいいかなと思ったんですが、
読み進んだら鐘鳴器がそこそこ重要なファクタっぽいので
いったん調べておいた方がよいかなと思ったのでした。



三、易介は挟まれて殺さるべし

爆弾発言をした法水だが、拱廊へは行かず
捜査員を集結させて鐘楼を取り囲ませる。
2時30分に鐘鳴器が鳴り終わって5分後には包囲完了。

拱廊へ向かいながら法水は悩み出す。
鐘鳴器の演奏者は伸子と鎮子のどちらかになるが、
音がパタっと止んだのではなく次第に弱くなっていった
点を考えると、二人が共に鐘楼にいたとは言えない。(?)
でも鐘鳴器の理論上倍音は絶対に不可能だ。
すると鐘楼には、演奏者以外にもう一人いなければならない。
ああ、あいつはどうして鐘楼へ現れたのか……

それなら鐘楼を調べればいいのになぜそうしない、と
局長が詰るが、ほんとそれ。
法水は、さらなる事件は防ぎたいから、と言っていたけど
よく分からない。

やっと拱廊へ来て具足類を調べる。
私に鎧のパーツとかの知識がないから、ここを読み解くのは
難しかったです。

法水は中央の萌黄匂(という鎧)を指す。
その両側の具足類は、なぜか右、左、右、左、と
交互にナナメっている。
鎧にはやはり易介が入っていて、甲冑を着て宙吊りで死んでいた。
喉に二条の切り傷がある。だが即死させる程度のものではない。
易介はなぜか鎧を横に着ている。
(つまり背中に瘤があるので、脇のスリット部分を
後ろへ回して納めているっぽい)
死後2時間は経過している。

(テレーズ人形の調査を終え、易介失踪の知らせを聞いた時が
午後1時。その時熊城が「10時半に僕の尋問が終わった」
と言っています。現在2時半だから、易介が命を落としたのは
10時半から午後0時半までの2時間の間ということか)

易介の体を引き出して調べると、顕著な窒息徴候が現れている。
けれど、口を閉息した形跡や、索痕や扼殺の痕跡もない。
時間をかけて次第に息苦しくなっていったと想像するしかない。
喉の傷は、死後につけられたもの。
甲冑の内部以外には一滴の血も発見されなかった。

どうしてここで易介が殺されているのが判ったのか、と問われ
法水は「無論鐘鳴器の音でだよ」と答える。
鐘は残響が著しい楽器なのに、先刻は澄んだ音が聞こえた。
拱廊の扉を閉めたから、残響が聞こえなくなったんだ。
易介が生から死へ移る凄惨な時間のうちに鎧を動かし、
左右の具足も順に回転させ、端のがノブを叩いて
扉を閉めてしまったのだ。とのこと。

まぁ、殺人があったと言い切るのは難しいかもだけど、
鐘の音の違和感から、拱廊で何か起こったと推量するのは
たしかにお見事。

ここで、最後に易介を見た者……として古賀庄十郎という
召使いが呼び出されるが、この人の証言がまぁすごい。

「最後に見たというか、私は易介さんがこの具足の中に
いたのも存じて居りますし、死んでいると云う事も……」
ええええ。

たしか11時半頃、礼拝堂と換衣室の間の廊下で易介を見た。
ツイてない、真っ先に嫌疑者にされてしまった……と
死人のような顔と声で愚痴っていた。
額を触ると、8度くらいの熱がありそうだった。
とぼとぼ広間(サロン)へ歩いていったのが、姿を見た最後。

1時を少し回った頃、吊具足がグラグラ動いているので
調べたら、萌黄匂の籠手の影で手を掴んでしまった。
40度はありそうな熱さだったし、小男でないと具足の中に
隠れられるわけがないし、易介だと悟った。
易介さんと声をかけたが、返事もしなかった。

ちょうど2時、最初の鐘鳴器が鳴っていた時、
田郷さんを寝台に寝かせて医者に電話をかけにいく途中。
(法水に圧迫面接された後、倒れたっぽい)
もう一度具足のそばへ来たら、易介の妙な呼吸使いが聞こえた。
気味悪くてすぐ離れ、刑事に電話のことを報告し、
戻りがけに今度は思い切って手に触れてみた。
わずか10分ほどの間に、氷のようになっていて
呼吸もすっかり絶えていた。仰天して逃げ出した。

「検事も熊城も、最早言葉を発する気力は失せたらしい」
と書かれている。
私もたくさんのミステリを読んだけど、こんな、
なんとも言えない感情を抱いた証言は初めてかもしれない。
ゲーム「逆転裁判」の法廷パートで矢張がとんでもない
証言をぶちまけた時の空気を思い出す。

「死後2時間」とか「じわじわと窒息」とか、
これまで推測していた状況とことごとく矛盾していて、
混乱の極み。

法水だけは落ち着いて、易介に甲冑の知識があったか尋ねる。
具足の手入れは全て易介が行っていたとのこと。
検事が「易介は自殺で、喉の傷だけ犯人が後からつけたのでは」
と言うが、兜の緒の締め方が作法外れで、とても
通暁している者がやったとは思えない、と否定する。

もしかしたら鐘楼へ行ったら、易介の死因も判るかもよ、
と言って鐘楼へ向かう。
半円になった廊下に3つ扉がある。
取り囲まれて出るに出られなくなった犯人がうずくまって
いるかも……と緊張しながら右側の扉を開けると、
壁際の鐘鳴器の鍵盤の前では、紙谷伸子が倒れていた。

演奏椅子に腰から下だけを残して、その儘の姿で
仰向けとなり、右手にしっかと鎧通しを握っていた。

「ああ、此奴が」
と走り寄った熊城が伸子の肩口を踏み躙る。(!?)
法水は中央の扉に紙片があるのを見つける。

Sylphus Verschwinden(風神よ、消え失せよ)

   *

トンデモ証言者といきなりトンデモ行動する捜査局長とで
読んでるこちらもちょっとダメージ負った気分です。

よく考えてみると、
「とある館で連続殺人事件が起こる」
というシチュエイションはミステリ界ではよくあるけれど、
「捜査が始まってからも連続殺人事件が続く」
というのはちょっと類を見ないかもですね。
社会派の連続通り魔事件とかならわかるけれど、
館の中という限定されたスペースで、
捜査員がたくさんいる中犯行を重ねるわけですから、
かなり斬新な展開ですよね……。

   *

ここまでの登場人物情報・つづき

古賀庄十郎(40代)最後に易介を見た召使い。

(進捗・119/469ページ)100ページ超えたっ 

 kokusikan05.jpg

明日は、今年の総括を記事にしようと思っています。
なので黒死館は年をまたいでしまうけれど、
また続きを読んでいこうと思います。
けっこう続きが気になる状態なので、まだ脱落せずに済みそうです。

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