アラスカ物語
2015年08月23日 (日) | 編集 |
「きもだめしでゾゾっとして涼しくする」的な
暑い夏を乗り切る工夫として、
涼しそうな本を借りてみました。

 alaskaStory01.jpg

新田次郎さんの、「アラスカ物語」。

これは実在の人物を描いた伝記的な小説です。

主人公は明治元年生まれの安田恭輔。
医者の息子として生まれたのですが、
少年時代に両親を亡くしたことで
医師を継ぐ夢は途絶え、全く別の人生を歩むことになります。

恭輔は外国船の乗組員になり、アメリカへわたります。
この本には、恭輔がフランク安田と名を変え、
アラスカのエスキモー社会に飛び込み
やがて大きな偉業を成し遂げるさまが描かれています。

この物語は冒頭から、フランクが単身 北極圏の雪原を
徒歩で横断するという胸熱シーンで始まります。

フランクは北極海の沿岸警備艇に乗っていましたが、
急な寒波で帰還が間に合わず、氷に閉じ込められてしまいました。

それは想定内で、氷が溶けるまで一冬過ごすだけの食料は
積み込まれているはずでしたが、
なんと荷揚げの際 8割がたを役人にちょろまかされて
しまっていたのです。

フランクは最寄りの町まで救援を頼むため、
船を降り、雪原を歩き始めたのでした。

ポイントバローというその町までは150マイル。
1マイルを1.6kmとすると、240kmですね。

フランクが荷役監視役だったことと、
白人以外の船員が彼だけだったことで、
そのまま船に乗っていてもやがては船員たちの手にかかり
命を落とすだろうという考えがあったようですが、
それにしても どれほど無謀な試みでしょうか。

船の遭難した位置からポイントバローは
まず南に130マイル、そこで海岸線に出るから、
それにそって北東に20マイル歩いたところだそうですが、
北極圏というのは、常識の通用しない世界です。

磁石はほとんど役に立たないし、
北極星は常に真上。
方角を知るすべがないのです。

唯一の手がかりが「青い夜明け」。

太陽が昇ることのない北極圏の冬ですが、
1日にほんの2・3時間、
地平線がうっすら青みがかることがあるそうです。

太陽が一番地平線に近づく瞬間というわけですね。
その青みがかったところが、南!

地球上のことなのに、まるでSFの設定みたいですね。

でもこれ、その時間帯吹雪いていたらアウトですからね。
それに海岸線と言っても、海の上も海岸の上も
同じように雪が積もっているわけで、ハッキリわかりません。
(フランクは海岸に到達したかどうかを確認するために
雪面を2mも掘って苔が出てくるのを確かめました)

最終的にフランクは、ポイントバローへ辿りつく前に
水、食料、燃料が全て尽き、雪上に倒れてしまうのですが、
そこへ通りかかったエスキモーの橇に拾われ
九死に一生を得ました。
ポイントバローまであとほんのわずかのところまで
近づいていたからこそ、人々の行き来があったわけですね。

フランクの乗っていた船には救援物資が届けられ、
船員たちの命は助かりました。
素晴らしい偉業ですね。
でもこれは、フランクの成した功績の
ごく一部でしかないのです。

   *

小説の筋以外のところでは、
フランクが旅をしたり狩りをしたりしたアラスカの地の
自然の描写がとても細かくて、感心しました。
ちょっと引用します。

 六月になった。沢には雪がぎっしりつまっているのに、
 日当たりのいいところでは強い芳香を放つエゾルリ草や
 ワスレナグサの花が群がって咲いていた。
 黄色の花が多く、その群落の中に、濃い青色の花や
 ピンクの花が混ざっていた。


たとえばこんな、そこに住んでいなければ
書けないような臨場感のある描写がしばしば出てくるのです。
どうしてこんなふうに書けるんだろうって
不思議に思うほどでした。

巻末の取材ノートによると、新田さんは実際に1ヶ月にわたって
アラスカへ取材旅行に行かれたそうです。
アラスカ大学で様々な資料にあたり、
フランクの住んでいたところを実際に訪れたりしたそうです。
だとしても、驚くばかりの緻密で美しい描写の数々です。

ポイントバローのような海岸沿いに暮らしていたエスキモーは
白人による鯨やアザラシの乱獲により暮らしていけなくなり、
内陸に暮らしていたエスキモーは
ゴールドラッシュで集まった白人によるカリブーの乱獲により
同様に村の壊滅の危機に瀕していました。

フランクは総勢200名に及ぶエスキモーたちを大移動させ、
新たな地に彼らが暮らしていける村を作るという
奇跡的な偉業を成し遂げました。

フランクが村を興してからおよそ100年後の今、
Google Map を使うと ビーバーというその村が見れちゃいます。

 alaskaStory02.jpg

ユーコン川ってこんなに大きいのか!とか
北の方にあるのは戦争の時フランクを強制収容するために
飛んできた飛行機が下りた滑走路か!とか
実際に見ることができて、ちょっとした感動でした。

というかフランクさんのお写真も残っているんじゃない。
Webで検索したら出てきてびっくりしちゃいました。

フランクさんは90歳まで長生きされて、
わたしが生まれるちょい前くらいまで生きておられたので
当たり前かもしれないですが、
小説の中の時間と現在とが意外に近くて驚きました。

主人公サイドから見ると、
寒さとか狼とか蚊とか
白人、アメリカ人、インディアン、疫病などなど
敵対する立場の存在は数々いるのですが、
この物語には不思議と殺伐した印象がありません。
フランクさんの人柄のためでしょうか。

「涼みたい」というよこしまな気持ちによる出会いでしたが、
とてもとても美しい物語でした。
いい本読んだー(^^)

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